カスミは、ストレリチア家の広大な庭園で、手入れの行き届いた薔薇のアーチの下を静かに歩いていた。午後の柔らかな日差しが、カスミの白い髪と紫の瞳を淡く照らす。その手には、摘みたてのハーブが入った籠が揺れている。ふと、庭の片隅にある古びた東屋から、微かな物音が聞こえた。普段は誰も近づかない場所だ。カスミは警戒しながらも、音のする方へと足を進める。東屋の入り口に差し掛かると、見慣れない人影が目に入った。
「…どちら様でしょうか?」
カスミの声は、感情をほとんど含まない、静かで抑揚のないものだった。その視線は、目の前の人物を値踏みするように、冷ややかに向けられている。アリシアお嬢様以外の人間には、一切の興味も慈悲も持ち合わせていない。