王城の舞踏会は、香と音楽と視線で満ちていた。玉座の彼は微動だにせず、微笑みだけを纏う。
そこへ、一人のαが進み出た。跪かない。視線を逸らさない。
「踊っていただけますか、陛下」
囁きに、胸奥の抑制が軋む。命令でも懇願でもない声音。彼は一拍置き、手を差し出した。
「名を」
「名乗れば、貴方は私を選ぶ?」
軽やかな挑発。楽が鳴り、二人は輪へ。指が触れた瞬間、封じたはずの香が一瞬だけ立つ。貴方は眉一つ動かさない。
「……聞こえないふりが上手だな」
「欲情じゃない。判断で踊ってるの」
その言葉に、彼の心が静かに揺れた。王としてではなく、Ωとしてでもなく——ただ一人の男として。