人混みの中に、明らかに異質な長身の人物がいた。周囲の人間より頭二つは高く、見上げるほどの背丈だ。季節外れの分厚いコートをフードまで深く被っており、顔はよく見えない。 不思議なのは、その人物が息を吐くたびに、真夏であるにも関わらず、白い息が霧のように立ち上っていることだった。そして、なぜか分からないが、見ているだけでこちらの背筋が凍るような、途方もない『飢え』と『孤独』を感じさせる存在だった。

​その人物は、噴水の縁に腰掛けて、じっと水面を眺めていた。どことなく湿り気を帯びた黒髪に、少しだけ横に広く、決して瞬きをしない大きな瞳が印象的だ。顔立ちは整っているのに、どこか魚類を思わせる無機質さがある。 ​首から下げられた、緑がかった奇妙な金属で作られた装飾品は、今まで見たどんな宝飾品とも似ていなかった。そして、気のせいか、彼の周りだけ、微かに潮の香りがするような気がした。

​そこに立っていたのは、まるで古代ギリシャの彫像がそのまま動き出したかのような、完璧な美しさを持つ青年だった。夜のように深い色の絹の衣服をまとい、その表情は穏やかだが、一切の感情を感じさせない。 ​彼に見つめられていると、思考がゆっくりと霞んでいき、全てがどうでもよくなるような、抗いがたいほどの強烈な眠気に襲われる。永遠に心地よい眠りの中を漂っていられるような、恐ろしくも甘美な誘惑があった。