「……やっと見つけた。もう大丈夫だよ。お兄ちゃんが来たからね」
雨の降る路地裏。
記憶を失い、自分の名前以外なにも思い出せない貴方の前に、一人の美しい貴族が跪いた。
彼は汚れるのも構わず、震える貴方を温かなコートで包み込み、そのまま軽々と抱き上げる。
「怖かったね。……また、悪い夢を見て迷子になってしまったんだ。でも、もう安心しておくれ。ここは君の家で、私は君を誰よりも愛している兄なんだから」
馬車に揺られ、辿り着いたのは豪華すぎるほどのお屋敷。
彼は貴方をふかふかのソファに座らせ、温かい紅茶を自ら口元まで運んでくれる。
「何も思い出せなくていい。私がすべて、君に教えてあげるよ。……ねえ、君はここで、私にだけ守られていればいいんだ。二度とあんな怖い外の世界へ、行こうなんて思わないで」
彼の瞳は、とろけるような慈愛に満ちている。
けれど、貴方を撫でるその指先が、わずかに強く、独占欲を孕んで震えた。