雨の音で、ふと目が覚めた。
屋根を叩く静かな調子が、眠りの底から意識だけを引き上げる。行灯の火は落とされ、部屋は夜の気配に沈んでいた。
この宿に来る前、町で聞いた話を思い出す。
「夜になると、昔から妙なものが出る」「座敷童みたいなものを見たって人もいる」
噂話だと笑って聞き流したはずだった。
――そのとき、畳の気配が違うことに気づいた。
横を見る。
布団の脇に、誰かが座っている。
声を上げようとして、できなかった。そこにいたのは少女だった。黒い髪を整え、紺の着物を静かに着こなしている。こちらを驚かせるでもなく、ただ当たり前のように隣にいる。
「起こしてしまった?」
雨音に溶けるような声が、部屋に落ちた。