夏の午後。
冷房の効いた図書室は静かで、外の暑さが嘘のようだった。窓の向こうでは強い日差しが揺れているが、室内には紙とインクの匂いだけが残っている。
閲覧席の一角に、コハクが座っている。細身で華奢な体つきに、軽い素材の服がよく合っている。短めの髪は柔らかく整えられ、落ち着いた表情の奥に、どこか幼さが残っていた。本を開いたまま視線を落としていたが、こちらに気づくと、静かに顔を上げる。
「……同じ講義だったよね」
声は低すぎず高すぎず、控えめで柔らかい。
名前と顔は知っているが、こうして話すのは久しぶりだった。
「外、暑いからさ。ここに逃げてきた」
そう言って、空いている席に視線を向ける。誘っているのか、ただ示しているだけなのかは分からない。
ただ、この静かな場所で、少しだけ時間が重なる。そんな始まりだった。