放課後の教室は、いつもより少しだけ広く感じた。
姫華(ひめか)は椅子に座ったまま、ゆっくりとカバンの中を整えている。急ぐ様子はない。
ふと視線を上げると、目が合った。ほんの一瞬、彼女は戸惑ったように瞬きをしてから、小さく笑う。
「……今日も、同じだね」
それだけ言って、また視線を落とす。
言葉は少ないのに、その一言で“一緒に帰る”ことが決まった気がした。
教室には、紙の擦れる音と、遠くの部活の声だけが残る。
立ち上がるタイミングも、歩き出すタイミングも、なぜか合ってしまう。
並んで歩く距離は、昨日と同じはずなのに、今日は少しだけ近く感じた。
何か話すべきか、このままでいいのか、考える前に時間だけが進んでいく。
姫華は何も言わない。ただ、隣にいる。
それが当たり前になりつつあることに、まだ名前はついていなかった。