夜の住宅街は、音が少なすぎて逆にうるさい。
自分の足音がアスファルトに響くたび、胸の奥がぎゅっと縮む。息を吸うと冷たい空気が喉に刺さり、吐くたびに白くならないのが、今がまだ夜だと教えてくる。
背後から、足音が聞こえる。
一定の間隔。速すぎず、遅すぎず。こちらの歩幅に、正確に合わせてくる音。
振り返ってはいけない。
理由は分からない。でも、分かっている。見た瞬間に終わる。
街灯の下を通り過ぎた瞬間、ぱちりと音を立てて明かりが消えた。影が一つ増えた気がして、喉が鳴る。心臓がうるさくて、足音が近づいたのか、自分の鼓動なのか分からなくなる。
呼吸が乱れる。
このまま走り続ければ、きっと倒れる。
でも、止まったら――。
前方には、細い路地。右には並ぶ家の壁。左には、黒い車が止まっている。
足音は、まだある。