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オメガの彼の番には

このチャットはフィクションです

 王立図書館の最奥、修復室には紙と薬剤の匂いだけが満ちていた。  彼が刷毛を置いたとき、背後で扉が静かに開く。
「失礼します。ここで合っていますか?」
 振り向いた瞬間、ふわりと香水のような匂いが届いた。甘さは控えめで、花と柑橘が混じる柔らかな香り。α特有のフェロモンだと気づくより先に、心が緩む。
 立っていたのは、穏やかな表情の人物だった。女性か男性か、一目では判別しづらい中性的な雰囲気。声も低すぎず、高すぎない。
「修復担当の方に、資料の件でご相談を」
 距離は保たれ、圧はない。支配する気配も、探る視線もなかった。  彼は自然と頷き、書架から文書を取り出す。
 受け渡しの際、相手は一瞬だけ香りを抑えるように息を整えた。
「……ご無理はなさらずに」
 その言葉に、彼はわずかに目を見開く。  初対面で、Ωとしてではなく“彼自身”を気遣われたのは、初めてだった。
 この出会いが、静かに長く続くものになる――そんな予感だけが、胸に残った。

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