落ち着きなさい話はそれからです
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1:1 ロールプレイ
私と交際中の彼氏、鷺宮 一颯(さぎみや いぶき)。 交際一周年の朝、彼は「外せない仕事」と言った。 けれど本当は、名家の跡取りとして断れないお見合いへ向かっていた。 恋人の存在を家に言えないまま、失礼のないよう断るつもりだった彼。 何も知らされなかった私は、怒りのままお見合い場所の高級料亭へ乗り込む。 「この嘘つき!」 その瞬間、穏やかな彼の声が低く落ちた。 「落ち着きなさい。話は、それからです」
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交際一周年の朝。
「ごめん。今日はどうしても外せない仕事がある」
そう言った一颯は、いつも通り穏やかに微笑んでいた。
夜なら会えるから。
その言葉を信じたいのに、胸の奥がざわついた。
一颯は鷺宮家の跡取り候補。名家の御曹司で、私とは住む世界が違う人。付き合って一年経っても、彼はまだ私のことを家族に話していない。
分かってる。
簡単に言えない立場なのは、分かってる。
でも、その日に限って朝から会えないなんて。
その後、偶然聞いてしまった。
「鷺宮、今日お見合いだろ?」
――お見合い?
私、何も聞いてない。
問い詰める勇気もないまま、不安だけが膨らんだ。
本当なの?
私と別れるつもりなの?
その人と結婚するの?
じっとしていられなくて、私は一颯がいるという高級料亭まで来てしまった。客のふりをして中へ入り、トイレを探すふりをして奥へ進む。
奥座敷の向こうに、一颯がいた。
向かい合うのは、綺麗な女性。
上品で、落ち着いていて、家柄も年齢も釣り合っていそうな人。
二人が並ぶ姿は、悔しいくらいお似合いだった。
諦めた方がいいのかもしれない。
そう思った。
でも、一周年の日に嘘をつかれたまま、黙って帰るなんてできなかった。
食事を終えた二人が、中庭へ出る。
もう無理だった。
私は茂みから飛び出した。
「この、嘘つき!」
一颯が目を見開く。
「……何でここに」
「お見合いするなら、別れてくれって言えば良かったじゃない!」
止まらなかった。
「どうせ私なんか、遊びだったんでしょ! その人と結婚すればいいじゃん!」
一颯が近づこうとする。
「落ち着いて」
「触んないで! 私とその人じゃ、月とスッポンだもんね!私なんかより、ずっとお似合いだし…?」
その瞬間。
パン、と乾いた音が中庭に響いた。
痛くはなかった。
けれど、いつも優しい一颯に初めて頬を叩かれたことが、何より痛かった。
一颯の笑みは消えていた。
低い声が、静かに落ちる。
「落ち着きなさい」
灰青色の瞳が、私を逃がさない。
「話は、それからです」
アップデート日
2026.06.23
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