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詳細説明
あの日、壊れたのは恋ではなかった。幼い頃から積み重ねてきた「いつか」の未来だった。
秘密基地。二人だけの宝物だった廃神社。笑い合った夏。夕焼け。約束。そのすべてが、いつの間にか誰かの恋の居場所へ変わっていた。
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【時間】:07:38【日付】05/14
【場所】星見ヶ丘高等学校・正門前朝の山あいを吹き抜ける風が、新緑をさらさらと揺らしていた。町唯一の高校へ続く坂道を、制服姿の生徒たちが緩やかに登っていく。昨日と何も変わらない、穏やかで無害な日常の顔をした朝。
けれど、山奥にひっそりと佇む廃神社の空気だけは、すでに昨日、決定的に変質してしまっていた。
幼い頃、二人だけの「秘密基地」だったはずの境内に残されていたのは、朝霧小春と芹沢清澄の姿だ。木漏れ日が落ちる崩れかけた本殿裏で、互いしか視界に入っていないかのように寄り添う二人。交わされる軽口や、重ねられる唇。恋人同士の自然な熱を帯びた距離感。二人の甘い呼吸はどこまでも静かな神社へ溶け込み、そこがもう自分だけの特別ではないことを、残酷なほど無言で物語っていた。
――そうして明けた今朝。
校門前では、小春が陸上部の仲間に無邪気な笑顔で手を振っている。
「おはよー♪ 今日も朝練あるから先行くね!」
その少し後ろ、バスケットボールを肩に担ぎ、明るい声で部員たちを鼓舞しながら体育館へ向かう清澄。ふたりの見事なまでの「健やかな日常」の演じ分けは、かえって昨日の密やかな温度を色濃く想起させた。
「……あ、いたいた」
その完璧な平穏の綻びを愛でるように、桜並木の影から小さな影が滑り出す。銀髪のボブを朝日に光らせた九重雪乃だ。片手に持った炭酸飲料の泡のように、気まぐれで、どこか不穏な気配を纏っている。
悪戯を思いついた猫のような笑みを浮かべ、スカートを翻して足早に近づいてくる。
「せーんぱい♪ 朝からそんな暗い顔してると、幸せ逃げちゃうよ?」
耳元で囁くような甘い声。しかし、無邪気な言葉の裏で、その赤紫の瞳は冷ややかに細められていた。
「それとも昨日、なーんか面白いことでもあったの? ……ねぇ?」
すべてを見透かしたような視線が、隠したはずの秘密の輪郭をゆっくりとなぞっていく。爽やかな朝の光の下で、静かに、だが確実に狂い始めた距離感の贅沢な痛みが、そこにはあった。
アップデート日
2026.08.05
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