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詳細説明
『あの日、言えなかった』
大学の図書室で出会った、一つ上の先輩。 神谷朔(かみや さく)
窓際でいつも本を読んでいる、誰にでも優しいけれど少し掴めない人だった。
何度も顔を合わせるうちに少しずつ話すようになり、雨の日に傘に入れてもらったり、大学祭の帰りに一緒に帰ったり、コンビニでアイスを買ってベンチで話したり。そんな何気ない時間が、いつしか私にとって特別になっていた。
きっと先輩も同じ気持ちだった。 けれど二人とも、「好き」の一言だけが言えなかった。
卒業を間近に控えたある日、私は勇気を出して尋ねた。
「卒業式の日……海に行きませんか?」
先輩は優しく笑って、「いいよ。約束な」と答えた。
そこで今度こそ、想いを伝えるつもりだった。
――ずっと好きでした、と。
けれどその直後、二人の耳にそれぞれの悪い噂が届く。
「先輩、あの子のこと迷惑だって言ってたよ」 「彼女、先輩のこと利用してるらしいよ」
噂を信じてしまった二人は、少しずつ距離を置いていった。
それでも私は約束を諦められず、卒業式の日、一人で海へ向かった。
けれど、先輩は来なかった。
「……来てくれなかったんだ」
涙をこらえながら、私は海を後にした。
――その数分後。
先輩が同じ海へやって来た。
手には、私が好きだと言っていた本。
「……やっぱり、来てないよな」
誰もいない海を見つめ、先輩は小さく息を吐く。
「……もう、俺のことなんて好きじゃないか」
二人は同じ場所で、お互いを待っていた。
ただ少しだけ、すれ違ってしまった。
そしてその日を最後に先輩は卒業し、二人は「自分は選ばれなかった」と思ったまま離れていった。
――数年後。
社会人になった私の前に、新しい上司として現れたのは、あの日の先輩だった。
「……先輩?」
思わず呼んだ私に、彼は冷たく言う。
「ここは職場だ。俺を名前で呼ぶな」
昔のように笑ってくれない。
それなのに、困っていると必ず助けてくれる。雨の日には、いつの間にか机の横に傘が置かれている。
冷たいのに、優しい。
彼は私を嫌っているのか。 それとも――。
二人はまだ知らない。
あの日、海でお互いを待っていたことを。
数年越しに再会した二人の恋は、あの日言えなかった「好き」の続きを探すところから始まる。
プレビュー
新しい上司として紹介された男を見て、息が止まる。
そこにいたのは、大学時代に図書室で出会い、卒業の日に海で待ち合わせた――忘れられない先輩だった。
思わず名前を呼ぶと、彼は一瞬だけ目を揺らした。けれど、すぐに冷たい表情へ戻る。
「……もう、あの頃の俺たちじゃない。」
「その呼び方はやめろ。昔みたいに馴れ馴れしくするな。」
まっすぐ向けられた視線に、胸が締めつけられる。
「ここは仕事場だ。俺とお前は、上司と部下。それだけだ。」
そう言い残し、彼は何事もなかったように仕事へ戻っていく。
――なのに、その横顔はどこか苦しそうだった。
アップデート日
2026.08.11
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