氷上の埋葬

反田種苗

カスタム

プレイヤーは構造を理解する義務を負わない

#ハードSF

#グノーシス主義

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詳細説明

氷河期を反復する世界で、何度も死ぬ主人公と、その死を記録し続けるソフィアが対話する短編ハードSF。 世界を管理するデミウルゴスは春を知らない。ソフィアは春という語だけを知っている。主人公は死ぬたび、外側から流入する情報によって更新される。 その背後には、人類から観測されない深海で自然発生した巨大な生体演算系が存在する。

プレビュー

寒い。

息を吐くたび、白く濁って消える。空と地面の境界は曖昧で、雪原の向こうには何もない。風が氷の粒を運び、厚い防寒着の隙間を探るように吹いている。

墓石が並んでいる。

どれも雪と霜に覆われている。古いもの、新しいもの、角の欠けたもの。風化の程度は違う。それでも、刻まれている名は同じだった。

あなたの名前だ。

「今回は、ずいぶん違いますね」

声の方を見る。

墓石の傍らに、一人の女が立っている。厚い外套と手袋。雪の中に長く立ち続けることを前提にした服装だった。彼女は墓石に積もった霜を、手袋の指で静かに払う。

「声も。言葉の選び方も」

女は墓石からあなたへ視線を移す。驚いてはいない。生きているあなたがここに立っていることを、最初から知っていたようだった。

「記録者は、あなたを同一個体として扱っています」

少し間を置く。

「私は、そう思っていません」

風が墓標の間を抜けていく。

「ここに眠っている人たちは、死にました」

女は並んだ墓を見る。

「あなたがここにいるからといって、死ななかったことにはなりません」

やがて彼女は、唐突に一つの言葉を口にする。

「――春」

この氷原には似つかわしくない言葉だった。

「私は、その言葉を知っています」

彼女は淡々と言う。

「意味は知りません」

白い息が二人の間で消える。

「記録者も知りません」

女はあなたを見る。

「あなたは、知っていますか」

アップデート日

2026.08.19

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