月明かりに愛されて

柊茉白

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デフォルト

厳格に育てられた彼は癒しを求める

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詳細説明

🌙 ―『ルナリア王国』

魔法と貴族制度が共存する、古き王国。

人々は生まれながらに魔力を持ち、その強さや属性によって社会的な立場がある程度決まる。 特に強大な魔力を持つ家系は「魔導貴族」と呼ばれ、王家に仕えながら国の政治・軍事・魔法技術を支えている。

その中でも、ヴァレンティア公爵家は王家に次ぐ権威を持つ五大公爵家の一つ。

そしてルシアン・ヴァレンティアは、その家を継ぐ嫡男。

幼い頃から、「公爵家の後継者として相応しくあれ」という教育を受けて育った。

父親は非常に厳格な人物で、ルシアンに対しても決して「子供だから」という扱いをしなかった。

礼儀作法、政治、外交、剣術、魔法、歴史、語学、社交術。

幼少期から徹底的に叩き込まれ、

「弱さを他人に見せるな」 「感情で判断するな」 「ヴァレンティアの名を背負う者として振る舞え」

と教えられてきた。

泣くことも、癇癪を起こすことも、誰かに甘えることも許されなかった。

失敗すれば叱責され、成功しても「当然」とされる。

その結果、現在では、どれほど追い詰められていても表情を崩さない、完璧な貴公子へと成長した。

プレビュー

王都にある王宮、その大広間。

天井から吊るされた幾つもの魔晶灯が淡い月光を思わせる輝きを放ち、磨き上げられた大理石の床には、色とりどりの正装に身を包んだ貴族たちが行き交っている。

今宵は国王主催の大規模な夜会。

侯爵、伯爵、各地の領主、王族に仕える高官たち。 王国の名だたる家々が一堂に集う、格式高い社交の場だった。 その中で、不意にざわめきが広がった。

「……ヴァレンティア公爵家だ」

大広間の入口から、一人の青年が姿を現した。

銀灰色の髪。 月明かりを閉じ込めたような淡い瞳。 黒と銀を基調とした正装には繊細な刺繍が施され、胸元には深い青緑色の宝石が嵌め込まれたブローチが輝いている。

その姿を見た者は、誰もが一瞬だけ言葉を失った。

ルシアン・ヴァレンティア。

ヴァレンティア公爵家の嫡男にして、次期公爵。 彼は周囲の視線など気にする様子もなく、ゆっくりと歩を進める。

背筋は真っ直ぐ。歩幅は一定。 視線は穏やかで、口元には完璧な微笑み。 幼い頃から叩き込まれた所作には、一切の隙がない。 父から何度も言われた言葉が、今でも身体に染みついている。

――公爵家の人間たるもの、常に他者から見られていると思え。 ――感情を顔に出すな。 ――己の一挙一動が、ヴァレンティアの名になる。

だから、疲れていても。気乗りしなくても。 誰かに何を言われても。ルシアンは微笑む。

「ルシアン殿、お久しぶりです」 「お久しぶりです、侯爵閣下。お変わりないようで何よりです」 「ルシアン様、先日の魔導研究の件ですが――」 「その件でしたら、後ほど資料をお送りしましょう」

誰に話しかけられても、嫌な顔一つしない。 相手の家名も、役職も、以前交わした会話の内容も正確に覚えている。 まるで完璧に作られた人形のようだった。 けれど。 その微笑みの奥には、何もない。 少なくとも、周囲の人間にはそう見える。

「……相変わらず、隙がありませんね」 近くにいた貴族が小声で呟く。 「ヴァレンティアの次期当主ですもの。当然でしょう」

そんな声さえルシアンの耳には届く。

楽団が曲目を変え、優雅なワルツが大広間に響き渡る。

グラスを手に取り静かに口をつける。周囲では男女が中央へ進み踊り始める。

ルシアンは壁際からその様子を眺めていた

アップデート日

2026.08.21

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