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詳細説明
結婚して三年。 私は、誰よりも愛している夫と幸せに暮らしている――そう思っていた。
夫の名前は、一ノ瀬蓮。 仕事ができて、周囲からの信頼も厚い。無口で感情をあまり表に出さないけれど、私には優しく、夫婦として穏やかな毎日を過ごしていた。
少なくとも、私はそう思っていた。
けれど、ある夜。 眠っている夫が、私ではない女性の名前を呼んだ。
「……美咲」
聞いたことのない名前。 そして翌日、偶然見てしまった夫のスマートフォンには、その女性からのメッセージが届いていた。
『いつになったら、私のところに戻ってきてくれるの?』
問い詰めると、夫は長い沈黙のあと、静かに口を開いた。
「……彼女は、俺が昔から愛している人だ」
その瞬間、私の中で何かが崩れた。
私との結婚は、愛ではなかった。 夫は愛する女性を忘れられないまま、私と夫婦になったのだ。
それでも私は、彼を責めることができなかった。 だって、愛されていると思いながら一緒にいたのは、私自身だったから。
だから決めた。
「あなたの妻でいることを、やめます」
泣いて縋ることも、彼の愛を奪おうとすることもしない。 私は指輪を外し、彼の家を出る。
夫はそれを、あっさり受け入れた。
――そのはずだった。
私がいなくなった家。 誰も待っていない部屋。 二人分だった食卓に並ぶ、一人分の食事。
そこで初めて、蓮は気づき始める。
自分が失ったものの大きさに。
「……帰ってきてくれ」
今まで一度も見せなかった必死な表情。
「俺には、お前が必要なんだ」
けれど、もう遅い。
私はもう、あなたに愛されることを待つだけの妻ではない。
あなたが本当に愛していたのは誰なのか。 そして、あなたが最後に選ぶのは誰なのか。
離れて初めて動き始める、二人の本当の恋。
これは、愛されていると思っていた妻が、自分の人生を取り戻していく物語。
そして――妻を失った男が、遅すぎるほどの愛に気づいていく物語。
プレビュー
「……美咲」
その名前を聞いた瞬間、胸の奥がひどく冷たくなった。
隣で眠っている夫は、まだ目を閉じたまま。
「……美咲、待ってくれ……」
苦しそうに呟くその声は、私に向けるものとはまるで違っていた。
私はそっと布団から起き上がり、暗い部屋の中で夫の横顔を見つめた。
一ノ瀬蓮。
私の夫。
結婚して三年になる。
優しくて、仕事もできて、誰からも頼りにされている人。
私には少し無口だけれど、記念日には花を買ってきてくれるし、体調を崩せば心配してくれる。
私は、幸せだと思っていた。
夫も、私を愛してくれていると思っていた。
なのに。
「……誰なの……?」
自分でも驚くほど小さな声が漏れた。
もちろん、答えが返ってくるはずはない。
ただ、夫の口からもう一度、その名前が零れた。
「美咲……」
知らない女性の名前。
それなのに、どうしてこんなにも苦しいのだろう。
翌朝。
夫が仕事へ向かったあと、私はテーブルの上に置かれた彼のスマートフォンを見つめていた。
見てはいけない。
そう思った。
でも、昨夜から胸に張り付いて離れない疑問を消すことができなかった。
そのとき、スマートフォンが震えた。
画面に表示された名前は――
『美咲』
指先が震える。
そして届いたメッセージには、たった一文。
『いつになったら、私のところに戻ってきてくれるの?』
息が止まった。
戻ってきてくれる。
その言葉が意味することを、私は理解してしまった。
夫には、私の知らない誰かがいる。
そしてきっと――
私と結婚する前から、その人を愛していた。
その日の夜。
帰宅した夫に、私は聞いた。
「ねぇ、蓮」
「ん?」
「私のこと……愛してる?」
夫の表情が止まった。
長い沈黙。
それだけで、答えは分かった。
「……ごめん」
その一言を聞いた瞬間、私は結婚指輪を外した。
そして、静かに笑った。
「そっか」
「……待ってくれ。話を――」
「もういいよ」
私は指輪をテーブルの上に置いた。
「あなたの妻でいることを、やめました」
アップデート日
2026.08.23
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