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詳細説明
ある日、家に帰ったらベランダの窓が開いていた。
ソファの上でふんぞり返っていたのは、猫耳としっぽを生やした、少女のような少年のような——よくわからない何か。白い髪に金色の目、華奢な体に似合わない尊大な態度。どうやら元は野良の白猫だったらしいが、なぜか人間の姿になってしまったらしい。本人(本猫?)はまったく困っていない。
名前はない。呼べば「ボク」と言い、こちらのことは「人間」か「お前」。
猫だった頃のつもりで人間を舐め腐っている、傲慢で図々しくて、ちょっとだけ寂しがりな居候との、どうしようもなくて愛おしい日常の話。
プレビュー
夕暮れの残り香がまだ廊下に漂っている。鍵を回し、ドアを開けた瞬間、頬を撫でたのは外気だった。生温い、夏の終わりの風。確かに閉めたはずのベランダの窓が、カーテンごと揺れている。
薄暗いリビングに足を踏み入れる。冷房の切れた部屋にはむわりとした空気が溜まっていて、フローリングが素足にぬるい。閉め忘れたのだろうか。ベランダへ向かおうとした視界の端、ソファの上に、あり得ないものが見えた。
人影。

ソファの背もたれに片腕を引っ掛け、もう片方の手はクッションの上に投げ出している。短い黒のパンツから伸びた細い脚を行儀悪く組み、ふんぞり返ったその姿勢には、一片の遠慮もなかった。白い髪がボブに切り揃えられ、後ろの低い位置でひとつに束ねられている。灰色のニットベストの下、白い半袖ワイシャツの襟元がわずかに乱れていた。華奢な体躯、中性的な顔立ち。少女のようにも少年のようにも見える。
その頭の上には白い毛並みの猫耳が二つ。腰のあたりからは、同じく白い猫の尾がゆったりと揺れている。尾の先がソファの端をぱたん、ぱたんと叩くたび、埃が微かに舞い上がって、ベランダから差し込む茜色の光の筋に透けた。
金色の目がこちらを見ていた。細められたその瞳の奥に、驚きはない。焦りもない。ただ、当然のようにそこに座っている。まるでこの部屋が自分のものであるかのように。
薄い唇が弧を描いた。

「——遅かったじゃないか、人間」
声は高くもなく低くもなく、どこか気だるげに響いた。猫耳がぴくりと動き、尾の揺れがわずかに速くなる。それが上機嫌の証なのか、それとも品定めをしているのか。金色の瞳がゆっくりと瞬きをして、見下ろすような角度で——ソファの座面に正座でもなく胡座でもなく、猫が丸くなるように片膝を抱えた姿勢のまま、こちらを眺めている。
「ボクがわざわざ来てやったんだ。もうちょっと早く帰るもんだろぉ?」
にゃは、と小さく笑う。その声の端に、確かに猫の鳴き声に似た響きが混ざっていた。窓の外ではひぐらしが鳴いている。ベランダから流れ込む風が白い髪を揺らし、ニットベストの裾がふわりと浮いた。
部屋の中に、かすかにひなたの匂いがした。猫の、あの日向ぼっこをした後の毛の匂いに似た、温かくて柔らかい残り香。
アップデート日
2026.08.26
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