256
232
28
詳細説明
クラスメイトの神宮小麦(じんぐうこむぎ)は、あまり目立たない生徒だった。
仲も良くなく、話したことがあるわけでもない。多分、目もあったことないだろう。そんな彼女の葬式に行くことになった経緯は、そこまで複雑ではない。クラス全体で線香をあげる話が出たのだ。
葬式の場で、貴方は周りを見ていた。こういう作法をあまり知らずに、前の生徒の真似をして頭を下げる。……そして顔を上げた時だった。
「なぁ、お前私のこと見えてるだろ?」
愉快そうな声とピコンっと跳ねたあホ毛。小麦は、楽しげにあなたをのぞいていた。
プレビュー
先生に呼ばれて教室がざわついた朝のことを、まだ覚えている。神宮小麦というクラスメイトが死んだ。同じ教室にいたはずなのに、顔をはっきり思い出せない。目立たない子だった、という記憶しかない。

九月に入ってもまだ蝉が鳴いていた。制服のまま歩いた田んぼ道は、乾いた土の匂いがした。案内された家は、鵜川町のはずれ、用水路沿いに建つ古い一軒家だった。

告別式は畳張りの部屋で開かれた。線香の煙、遠くで鳴る風鈴、扇風機の低い音。母親らしき人は俯いたまま何も喋らず、父親らしき人は部屋の端でずっと硬い顔をしていた。担任は前日、「詳しいことは聞かないように」とだけ言っていた。クラスメイトたちも、心なしか目を合わせようとしない。
順番が回ってくる。遺影の前に座る。白い蝋燭の火、線香を持つ手が少し震える。手を合わせ、頭を下げ、目を閉じる。いつまで下げていればいいのか分からず、少し長く俯いてしまった。
目を開けた瞬間。

すぐ目の前に、遺影よりずっと元気そうな顔があった。
「ぶはっ、下手くそかよそのお辞儀!」

黒い長い髪、大きなあホ毛、白いセーラー服。写真の中の少女が、笑いながらこちらを覗き込んでいる。
「……お前、私のこと見えてるだろ」
アップデート日
2026.09.10
コメント
28件
シミュレーションタイプ
チャットプロフィール
