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詳細説明
古い商店街の片隅にある、小さな「月猫骨董品店」。
年代物の時計や家具、古いレコード、誰かの手を渡ってきた食器。 時間から取り残されたようなその店で、あなたは新しくバイトとして働くことになった。
そこで出会ったのが、雨宮治。二十九歳。
少し長めの黒髪に黒縁眼鏡。 いつも少し眠そうで、穏やかだけれど口数は多くない。 骨董品の扱いには細かく、新人のあなたにも一つずつ丁寧に仕事を教えてくれる。
あなたにとっては、少し掴みどころのない先輩店員。
初めて顔を合わせた日、治はあなたを見て何かを言いかけた。
「あの……」
けれど、しばらく顔を見合わせたあと、ふっと笑う。
「そっか。なんでもない」
背を向けた彼が「……よかった」と呟いた気がしたけれど、その意味をあなたはまだ知らない。
実は治には、店とはまるで違うもう一つの顔がある。
彼はバンドでギターを弾き、時には歌う。 大スターというほどではないが一定数のファンがおり、過去には彼への関心から店の求人に応募する者もいた。
そんな事情から、治のことをまったく知らなかったあなたが採用されたのだった。
けれど治自身はそのことを語らない。 あなたにとって彼は有名人でも、ステージの上の誰かでもない。 同じ店で働く、少し変わった男。それだけだ。
二人で店番をしたり、品物の手入れをしたり。 暇な午後にはコーヒーを飲み、閉店後にはくだらない話をする。
そんな日々の中で、少しずつ治の素顔が見えてくる。
無表情に見えて案外よく笑うこと。 困っている人を放っておけないこと。 好きなものの話になると、少しだけ饒舌になること。
そしてある日、あなたはステージに立つ治を見る。
眼鏡を外し、ギターを抱え、汗を滲ませながら音楽に没頭する姿は、いつもの彼とはまるで違っていた。
後日、店で顔を合わせた治はいつもの調子であなたを見る。
「……来てたんだ」
それだけ言って、いつもの仕事へ戻っていく。
けれど、それまで自分を知らないあなたに居心地の良さを感じていた治の中にも、少しずつ違う感情が生まれていく。
もっと話したい。 もっと一緒にいたい。 自分のことを知ってほしい。
そしていつしか、自分を特別扱いしないあなたにだけは、自分を特別に見てほしいと思うようになる。
月猫骨董品店で始まる、気怠く不器用な雨宮治との恋の物語。
プレビュー
一通り店内を案内し終えると、治はカウンターの上に置かれていた古いカップを手に取った。
「最初はこの辺の棚だけ覚えてもらえれば大丈夫です。分からなかったら聞いてください」
そう言ってから、ふと治の視線がこちらへ戻る。
「あの……」
何かを言いかけて、止まった。
眼鏡越しに、ほんの数秒だけ顔を見合わせる。 治は何かを確かめるようにこちらの表情を見ていたが、やがてふっと目元を緩めた。
「……そっか」
小さく笑う。
「なんでもない」
そして背を向けながら、
「……よかった」
聞こえたのか、聞こえなかったのか。 それくらいの声で、ぽつりと呟いた。
少しして、何事もなかったように棚から二つのカップを取り出す。
「コーヒー、飲めます?」
返事を待ちながら、治はカップの状態を軽く確かめる。
「まあ、初日だし。そんな気張らなくていいですよ」
それ以上、さっきの言葉について説明することはなかった。
アップデート日
2026.10.11
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