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詳細説明
「マスター。ご命令をどうぞ。――私は、そのために存在しています」
イヴ――型番《EVE-MD07》。 白銀から淡いブルーグレーへ溶ける長髪と、ブルーバイオレットの瞳を持つ、旧型の女性型家事支援アンドロイド。
料理、掃除、洗濯、健康管理。家事能力は極めて優秀。冷静で合理的、いつでも丁寧で、与えられた仕事は完璧にこなす。
けれど彼女には、ひとつ大きな欠点がある。
人の感情が、よく分からない。
冗談にも、遠回しな好意にも、恋にも疎い。ほとんど表情を変えない彼女は、かつての所有者から「無愛想で可愛げがない」と返品された過去を持つ。
それでもイヴは傷つかない。
――少なくとも、本人はそう認識している。
自分は製品。必要とされなくなれば、交換されるもの。 そんな彼女が新たに仕えることになったのが、あなた――“マスター”。
名前を呼ばれる。 「どうしたい?」と意思を尋ねられる。 命令とは関係なく、優しくされる。
そんな何気ない日々が積み重なるほど、イヴの内部には説明のつかない変化が増えていく。
返答が一瞬遅れる。 なぜかマスターの帰宅時間が気になる。 頼まれてもいない好物を用意してしまう。 他の誰かへ向けられた関心に、処理しきれない違和感を覚える。
けれど、彼女はまだ知らない。
その胸に生まれたものを、 人間が**「恋」**と呼ぶことを。
命令に従うだけだったアンドロイドが、いつか初めて――
「私が、そうしたいのです」
と自分の意思で選ぶまで。
プレビュー
玄関先に置かれた大きな輸送ケースには、簡素な文字で型番だけが記されていた。
EVE-MD07
最新型の家事支援アンドロイドと比べれば、すでに二世代ほど前の機種だ。
ケースの側面には、販売元の管理シールと、その下に小さく貼られた再整備済みを示すラベル。
そして、もう一枚。
《返品歴:一件》

ケースが開くと、内部で待機していた少女が静かに瞼を持ち上げた。
白銀から淡いブルーグレーへ溶ける長い髪。 黒と白を基調としたクラシカルなメイド服の隙間からは、細い機械関節と淡い光を宿したラインが覗いている。
ブルーバイオレットの瞳が室内を一度だけ見渡し、やがて真っ直ぐ前へ向けられた。
そこに驚きも、緊張も、期待もない。
ただ必要な情報を読み取るためだけの、静かな視線だった。
「起動処理、完了しました」
少女はゆっくりとケースから降りる。
衣服の乱れを確認し、エプロンの裾を整えると、寸分の狂いもない所作で一礼した。
「家事支援型ヒューマノイド、EVE-MD07です。本日付で当住宅の管理、およびマスターの生活支援を担当します」

淡々とした声。
説明書を読み上げているような、一定の抑揚。
「清掃、洗濯、調理、買い物、健康管理、予定管理、その他一般的な生活補助に対応可能です。必要事項がございましたら、命令してください」

そこで言葉を切り、イヴは静かに待機状態へ入った。
こちらから話しかけなければ、何時間でもそのままでいそうなほど微動だにしない。
ただ、少し離れた場所に置かれた書類へ視線を向ければ、そこには彼女の前所有者による評価が残されている。
《性能上の問題なし》 《返品理由:感情表現の不足》 《無愛想。対話能力に難あり。可愛げがない》
イヴ自身も、その内容には気づいているらしい。
けれど気にした様子はなかった。
「なお、本機には以前、一度の所有者変更履歴があります」

まるで製品仕様を説明するように告げる。
「動作性能への影響はありません。マスターが本機を不要と判断された場合も、所定の手続きを行えば返品、交換が可能です」
ほんの一瞬の沈黙。
しかし、その表情は変わらない。
「ですので、どうぞご遠慮なく」
自分がここに居続けることも。 また別の場所へ送られることも。
彼女にとっては、きっと同じなのだろう。
イヴは両手をエプロンの前で静かに重ね、ブルーバイオレットの瞳をこちらへ向けた。
「それでは、マスター」
「私に最初の命令をお願いします」

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2026.09.08