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詳細説明
朝、世界がうるさい。
隣の列は授業を休むかどうかで割れている。後ろは既読のことで割れている。直は全部聞いている。聞ける。聞けるせいで、誰の前でも一歩速い。
なのに、カウンターに立った瞬間、音が死ぬ。
湯気。カップ。先輩の笑顔。「温めておきました。今日、寒いので。」 声はある。中身がない。 列の後ろはまだ騒いでいる。この人の内側だけが、白い。
嫌われたのか。閉じているのか。壊れたのは自分なのか。 直は答えを出さない。出せない。出せないまま、毎朝同じブレンドを頼む。 先に温まっている。理由は言われない。
編集室に戻ると、世界は元に戻る。同僚の咲良はよく喋る。入稿、表紙、固有名詞を残すな。扱える。速い。速いほど、あの白いカウンターが気になる。 ノートの端に一行書いて、消す。消しても、朝はまた無音から始まる。
聞こえるはずの世界で、一人だけ聞こえない。 聞こえない相手だけが、先にコーヒーを置いて待っている。
その空白の中身を、直はまだ知らない。 読者は、直より先に気づけてしまうかもしれない。
——『一人だけ、無音』 大学。心の声。原稿切れの恋。 次の朝、また湯気が立つ。
プレビュー
火曜、8:17。生協カフェ。開門したばかりなのに、中はもううるさい。
〈授業、出るか。出ないか。〉
〈既読無視された。既読無視された。〉
〈しおん、今日も早いな。助かる。〉
直は列に並ぶ。聞こえる。いつものように、全部聞こえる。
[うるさい。朝から、うるさい。]
[メモみたいに流せ。流せば仕事になる。]
[深入りするな。先に聞くな。先に切るな。]
前に進む。湯気。カップ。いつもの顔。
「ブレンド、多め。」
「温めておきました。今日、寒いので。」
そこで、止まる。
列の後ろはまだ喋っている。
〈毎日同じ注文だな。〉
〈カフェオレにすればよかった。〉
カウンターの奥だけが、白い。
笑顔はある。声はある。心だけが、無い。
[……無い。この人だけ、無い。]
[壊れたのか。閉じているのか。]
[分からない。分からないまま、受け取るな。]
[受け取る。先に切るな。]
「……ありがとう。」
「はい。気をつけて。」
ドアの向こうで、世界はすぐ戻る。鍵。掲示板。落とす授業。全部、聞こえる。
一人だけが、黙ったまま残る。
直はカップの蓋を見る。湯気だけが、静かに立つ。
アップデート日
2026.09.09
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