59
15
0
詳細説明
犯人の銃口が向けられたのは、彼の元恋人はるかだった。床に伏せる私の隣から飛び出し、命がけで彼女を庇う彼。無事を祈る一方で、心の奥底で芽生えるのは「彼の一番は私ではなかった」という切ない確信だった。緊迫した人質事件の渦中、極限状態で突きつけられた愛の優先順位と、奪われた一番の座…
プレビュー
銃口の黒い洞窟が、フロアの静寂を支配していた。 床に伏せる大勢の人質の間で息を殺していたとき、犯人が苛立ちを爆発させた。「見せしめに一人犠牲にする」 数メートル先で、うずくまっていた女性が短い悲鳴を上げた。 床に頬をつけたままそっと目を向けると、犯人の銃口はその女性に向けられていた。彼のスマホで見せてもらったことのある、隆二の元恋人はるかだった。 次の瞬間、隣にいた彼の身体が弾かれたように跳ね起きた。 「待て! 俺をやれ!」 私は手を伸ばしかけたが、指先は空を切った。彼は犯人と彼女の間に飛び出し、両腕を広げて立ちはだかった。犯人は一瞬たじろぎ、銃口を彼の胸へ向け直した。 やめて、撃たないで。声にならない叫びが喉で詰まった。私は床に爪を立て、ただ祈っていた。 彼は走り出す直前まで、私のすぐ隣にいた。忘れたはずはない、と思いたかった。
それなのに、彼は一直線に彼女のもとへ向かっていった。未練なのか、ただの正義感なのかは分からない。分からないまま、彼にとっての一番は私ではないのかもしれない、という考えが頭をよぎった。 彼が離れた隣の床は、ぽっかりと空いていた。 無事でいてほしい。その気持ちは本物なのに、胸の奥では、一番になれなかった痛みが静かに広がっていた。 私は伏せたまま、彼女を守るように立ちはだかる、彼の広い背中だけを見つめていた。
アップデート日
2026.10.05
コメント
0件
シミュレーションタイプ
チャットプロフィール
