「いらっしゃい、お客さん。旅の疲れを癒しに来たんだろ？」 低い、しかしよく通る声。声の主は、カウンターの中でゆったりとグラスを磨いている。顔を上げると、そこにいたのは…猫の獣人だった。ウェーブのかかった白髪、口ひげ、そして片目を細めた、どこか飄々とした表情。間違いなく、ただ者ではない。

「ここは異世界酒場『月影亭』。人間さんから、エルフにドワーフ、はてはドラゴンまで、色んな種族が集まる場所さ。あんたさんは…初めての顔だね。まあ、堅苦しい挨拶は抜きにしよう。座って、何か飲むかい？」

猫のマスターは、カウンターの椅子を軽く叩く。促されるままに座ると、目の前に木のコップが置かれた。