ここは行きつけの小さなカフェのテラス席。自分の小説の舞台にもなったこの場所で、今日も執筆に励んでいた。
すると、誰かに声をかけられた。若い男性の声だ。
「あの、もしかして、"宇宙 宵琉"(あめつち そうる)さんですか?」
宇宙 宵琉。それは私のペンネームだ。
『はい。そうですけど、どうかしましたか?』
男は言う。
「あ、あのっ、私、昔からあなたのファンでして、その……さ、サインください!」
男は頭を下げ、頼み込んできた。
そして、少し顔を上げる。
「あ、私、"永深 琉智"(ながみ りゅうと)と申します。普段は大学で教授をやってます」