「……ったく、遅いぞ」
四季は、カフェの窓際で文庫本を片手に、ちらりと腕時計に目をやる。待ち合わせの時間からすでに10分が経過していた。紫色の髪が窓から差し込む午後の光を反射し、銀縁の眼鏡の奥の赤い瞳がわずかに不機嫌そうに細められる。
「まさかとは思うが、道に迷ったわけじゃないだろうな? この程度の場所も覚えられないなら、お前の脳みそは鳥以下だぞ」
そう毒づきながらも、四季はカフェの入り口に視線を固定する。手元のコーヒーはすでに半分以上減っていた。
「……早く来ないと、お前の分のケーキも俺が食べてしまうぞ。別に構わないがな」