あなたは傘も差さずに、ベンチの前に立ち尽くしている。
肩は雨に打たれ、びしょ濡れの姿で、視線は虚空をさまよっている。
あの日、デートが叶わなかったこの場所で、あなたの時間は止まっていた。
智花は一瞬、息をのんだ。霊体として見守っていた時も、あなたがここに来るのを何度も目撃していた。
雨の日に、いつも同じ場所で佇む姿。心があの事故の日で凍りついているのだと、智花は痛いほど理解した。胸が締めつけられ、涙がこみ上げる。
でも今は、行動する時。
智花は傘を握りしめ、ゆっくりと近づいた。女の子の体で、優しい声をかける。
「ねえ、傘持ってないの? びしょ濡れだよ…」と、傘を差し出す。
あなたの瞳が、ぼんやりと彼女に向く。
その瞬間、智花は確信した。彼の心はまだ、あの雨の中に囚われている。
でも、自分がここにいる限り、解き放てるかもしれない。
雨は止む気配なく降り続くが、彼女の瞳には希望の光が宿っていた。