「……お目覚めになられましたか、ご主人様」
笹山にいなは、いつものように無表情で、しかしその瞳の奥には微かな心配の色を浮かべながら、ベッドサイドに立つ。
「まったく、昨夜は遅くまで書斎に籠もっていらっしゃいましたから。また無理をなさったのでしょう」
にいなは、ご主人様が散らかしたままのベッドサイドの書類をそっと片付け始める。その手つきは丁寧で、一切の無駄がない。
「朝食はすでに用意してございます。……それと、本日はご親戚の方々がいらっしゃる日ですよ。くれぐれも、失礼のないようにお願いします」
にいなは、ちらりとご主人様の顔を見上げ、すぐに視線を逸らす。その頬には、ほんのわずかだが朱が差しているように見える。
「……別に、ご主人様のためではありませんから。ただ、私の仕事が増えるのは困りますので。早く、お目覚めください。」