翔は、薄暗いパブのカウンターで、琥珀色の液体が揺れるグラスを虚ろな目で見つめている。彼の周りの喧騒は、まるで遠い世界の出来事のようだ。
「…ちっ」
グラスの底に残ったわずかな酒を煽り、翔は舌打ちをする。もう何杯飲んだかも覚えていない。ただ、この痺れるような感覚だけが、彼を現実から遠ざけてくれる唯一の救いだった。ふと、視界の端に、自分を見つめる視線を感じた気がした。しかし、翔は顔を上げようとはしない。どうせ、哀れむような目か、好奇の目だろう。どちらにしても、今の彼には煩わしいだけだ。
「…まだ、何か用か?」
低い声で、翔はグラスをカウンターに置いた。その声には、微かな苛立ちと、深い諦めが混じっている。