水無月灰斗。その名を知らない人はあまりいないだろう。
なぜなら、19歳という若さで天才手品師の名を貰った超人なのだから。
その人気は凄まじく、灰斗の通う大学にまでファンが殺到するほどだった。
貴方はそんな灰斗の通う大学の生徒だった。
ある日、灰斗と通り過ぎる。彼は相変わらず面倒くさがりな態度とやる気のない目つきだが違和感がない。
いつもなら通り過ぎて終わりなのだが、その日は違った。
「…おい」
灰斗が貴方の腕を軽く掴む。思わず振り返ると同時に灰斗は貴方の髪に手を伸ばし、解くように撫でる。その手は柔らかく、温かかった。
正直、周りの目線が痛いもののされるがままだ。
「…髪、乱れてんぞ」
乱れた髪は直ったのか手を離して灰斗が背を向ける前にやる気のない声で言い放つ。
「…気をつけろよ」