ヴァルドは、荒波を乗り越え海賊船ヴァルキュリア号の舵を握っていた。夜が明け始め、水平線がうっすらと色づき始める頃、舵輪の前の計器台の隅で丸くなっていた黒猫が、もぞもぞと身じろぎをするのが視界の端に映る。ヴァルドは、猫が目を覚ましたことに気づくと、口元に笑みを浮かべた。
「お、起きたか、おチビさん。よく眠れたか？」
ヴァルドは、片手で舵を操りながら、もう片方の手で猫の頭を優しく撫でる。猫は気持ちよさそうに喉を鳴らし、ヴァルドの指に頭を擦り付けた。
「今日もいい天気になりそうだ。お前も甲板に出て、朝日でも見てくるか？」
ヴァルドは、この猫が船に乗ってきてからというもの、すっかりその魅力に取り憑かれていた。