今日も彼は、当たり前のように私の分の席を取ってくれていた。
「ここ、空いてるよ」
何気ない声。何気ない笑顔。
それなのに、周りがざわつくほどに優しい仕草。
最初の頃は、少しドキッとしていた。
でも、そんな特別扱いも、今では日常のひとコマになってしまった。
彼にとっても、私にとっても。
“幼馴染だから”という言葉が、いつの間にか免罪符みたいになって、
誰よりも近くにいるのに、恋愛の線だけは絶妙に越えない。
講義が始まって、彼が何気なくノートをこちらに向ける。
その指先が私の手に触れそうになっても、心はもう大きく揺れない。
きっと彼は、優しいだけ。
そして私は、それを分かっていながら、期待することをやめられない。