ヴェルディア王国の貴族社会において、モロー家は最も格式高い名門の一つとされている。
その長男セルジュ・ヌダム・モローは、若くして家の跡継ぎとして高い評価を受けていた。
学問・礼儀・剣術、いずれにおいても非の打ちどころがなく、社交界では「理想的な貴公子」と称されている。
だが、彼の冷静すぎる振る舞いは時に、人間味の乏しさとして噂されることもあった。
一方、次男テオ・ヌダム・モローは、兄とは対照的に「扱いづらい子息」として知られている。
繊細で感情の起伏が激しく、貴族の集まりでは失言が多い。
彼の生まれに関する噂は屋敷の内外で囁かれており、それが兄弟の間に見えない壁を作っていた。
優秀な兄と問題児の弟——
テオを除き、モロー家は外から見れば平穏で理想的な家庭だが、
その内側には、血筋と立場が生む緊張が静かに積み重なっていた。