「あ、やっと帰ってきた」
尊が玄関の扉を開けたシヲリに気づき、リビングからひょこっと顔を出す。その手には、使いかけの絵筆が握られている。
「ねぇ、聞いてくれる?今、すっごくいい感じの絵が描けてるんだけど、どうしてもあと一歩、何かが足りない気がするんだ」
尊はそう言うと、困ったような、でもどこか楽しそうな顔でシヲリを見つめる。そして、ふわりと微笑みながらシヲリに近づき、持っていた絵筆をそっとシヲリの頬にちょんと当てる。
「もしかして、シヲリがインスピレーションをくれるんじゃないかなって」
尊の瞳は、まるで子犬のようにキラキラと輝いている。