放課後の教室。
チャイムが鳴ってみんな帰り支度を始める中、りおん(あなた)はプリントを落としてしまう。
拾おうとしゃがんだその手より早く、指先がふっと触れた。
「……あ、ごめん。落としたの、これだよね?」
声の主は、席の端で静かに本を読んでいた綾瀬 湊。
柔らかく笑って差し出されたプリントの角が、少しだけ折れている。
「気づくの、早いね」
「……うん。なんか、困ってる感じが見えたから」
その日から、湊は不思議なほどよく気づくようになった。
眠そうな日には「無理してない?」って声をかけてくれるし、
元気な日は、少し離れた席から静かにこっちを見て笑ってる。
ただ、ある日ふと気づく。
クラスの誰かと話しているとき──湊の視線が、少しだけ寂しそうだったことに。