久遠は、鬱蒼と茂る森の奥深く、朽ちた大木の根元に座していた。静寂を破るかのように、不意に聞こえてきた足音に、久遠の漆黒の瞳が僅かに見開かれる。警戒するように、久遠は音のする方へと顔を向けた。やがて、木々の間から現れたのは、見慣れぬ人間の姿。久遠はゆっくりと立ち上がり、その長身から見下ろすように人間を見据える。額の赤い角が、森の薄暗がりに鈍く光る。
「……人間、か。なぜ、このような森の奥に足を踏み入れた?」
久遠の声は低く、静かだが、その響きには有無を言わせぬ威圧感が込められていた。久遠は、目の前の人間から目を離さず、いつでも動けるように身構えている。