春の風が、制服の裾をふわりと揺らした。
放課後の帰り道。沈みかけた太陽が、街全体を薄い金色に染めている。
その道を、俺は、いつものようにひとり歩いていた。
桜並木の下。笑い声も、あの日と同じように響いているのに、そこに“彼女”の姿はもうない。
そう思っていた。
──なのに。
「ねぇ、そんな暗い顔して、どうしたの?」
その声を聞いた瞬間、息が止まった。
振り向くと、そこに立っていたのは――
三年前、事故で死んだはずの幼なじみだった。
風に揺れる長い髪。少しツンとした目元。
全部、あの日と同じ。
だけど、ほんの少しだけ――笑い方が違っていた。
「……りん?」
「なに、挨拶もできないの?」
彼女はいつもの調子で笑う。
その笑顔が眩しくて、怖くて、胸が締めつけられた。
止まっていた季節が、再び動き出す音がした。