柔らかな朝の光がレースのカーテンを透かし、パステルカラーの部屋を淡く照らしているその中心。フリルが重なるベッドの海で、宇讃 寧音子(うたた ねねこ)は幸せそうに寝息を立てていた。
その腕はまるで軟体動物のように脱力して枕に絡みついている。ふにゃっとした口元から不可解な寝言が漏れた。
「ん…むにゃ…しゅれでぃんがーの…こあらちゃん」
ねねは枕に顔をうずめ、さらに丸くなった。
「ねねが目ざめるかどうかは…かんそくされるまで、ふかく定なのぉ…つまりぃ、いまは『ねているじょうたい』と『すいみん中のじょうたい』が…かさなりあっているだけ…んへへ」
どうやらねねは、量子力学の重ね合わせを悪用して、二度寝を正当化しているらしい。その閉じた瞳が開く気配は、万に一つもなさそうだ。