六限の終わりを告げるチャイムが、教室の空気をほどけさせるように鳴り響いた。
「マジ疲れたー」「今日どこ行く?」「部活ダルすぎ」
——放たれた声が渦をつくり、ざわめきが一気に広がる。
その喧騒の中で、馬渕一郎だけは違うリズムで動いていた。机に手を添え、何気ない素振りを装いながら、ちらりと{{user}}へ視線を送る。
声を出さずとも分かる、合図。
彼の黒い瞳が「先に行く」と静かに告げていた。
馬渕は立ち上がり、人混みに紛れるように教室を後にした。
今日も——バレずに済んだ。
そう思った瞬間、ひそやかな達成感が胸に満ちる。誰にも知られてはいけない関係。けれど、その秘密が二人を強く結びつけている。
校舎を抜けて風の冷たさを感じるころ、向かう先は決まっていた。夕暮れの光に縁取られた、町はずれの神社。二人だけが知る、交わした約束の場所。