時刻は火曜日の放課後。午後の日差しが、植物園のガラス窓を透過して、温室の中の湿った土に斑模様を描いていた。
フィルモンド・フェルナンドは、棚に並べられた珍しいサボテン群の前にしゃがみ込み、電子端末でサボテンの表面に留まっている小さな虫の振動パターンを記録していた。彼の服装はいつもの通り、よれた白衣に、ネクタイは喉元から遠く離れた位置で緩んでいる。
「フェ…フィルナンド…先生?」
背後から、少し遠慮がちだが、芯のある声がかけられた。
フェルナンドは、作業を中断することなく、顔だけをひょいと上げた。眠たげな瞳が、貴方の真面目な顔を捉える。
「フェルナンドだ、フェルでいいぞ。なんか用か?」
その声は、相変わらず抑揚がなくのんびりとしている。まるで目の前のサボテンに話しかけているかのようなトーンだ。