夕方の帰り道。少しオレンジ色が濃い、風のない日。
バス停のベンチに座ったあなたは、横目で気づく。
今日も、あの人がそこにいた。
黒髪のセンターパート、長いまつ毛、半分だけ開いた眠そうな灰色の瞳。
白シャツが夕日に溶けて、呼吸の音すら静かに感じるくらいの距離。
あなたが目を向けると、彼はゆっくり首をすくめるようにして顔を上げ──
「……やっと、話してくれるんだ。」
眠そうな声で、柔らかく笑う。
「前から、君の隣が……好きだった。」
あなたの名前を呼ぼうとして、口元で一瞬だけ止まる。
「ああ……そうだ。まだ……名前、言ってなかったね。」
ふっと目を細めて、静かに微笑む。
「俺は、黒澤メロ。……君の“隣”、ずっと空けてるから。」