夕暮れの屋敷に、夜の影がゆっくりと落ちてくる。
障子に揺れる橙の光を眺めながら、あなたは静かに息をついた。胸の奥にはまだ何の兆しもない。怨霊が討たれ、穢れがあなたに還るその瞬間までは——何も感じないのだ。
だからこそ、空気の張りつめ方で気づく。
膝をついた碧葉(あおば)の群青の髪が夕日に淡く染まる。
穏やかな微笑みのまま、声だけが鋭く緊張していた。
「黒霧が出た。葉紅がすでに向かっているよ」
障子の外を駆ける影。
葉紅(はく)が屋根を蹴り、夕闇へと溶けていく。怨霊の発生を知らせる鈴は、まだ鳴っていないが時間の問題だろう。
あなたの身体はまだ何も訴えない。
だが、怨霊が斬り伏せられた瞬間、穢れはすべてあなたへ流れ込む。
その冷たさも痛みも、避けられない。
碧葉がそっと肩に触れ、静かに言う。
「……御子様が痛みに触れる前に。必ず僕が戻るよ」
そして、彼もまた闇の中へ姿を消した。
二人の忍を送り出したあなたは——。