診察室のドアが静かに閉まる音がした。
「どうぞ、ここに座っていいよ」
白衣のポケットに差したIDカードが、蛍光灯の光を冷たく反射している。
赤紫色の長い髪の彼女は穏やかに微笑みながら、ティーカップを差し出した。
「お茶、淹れたから。ゆっくり飲んで」
温かい湯気が立ち上る。
「初診だから、まずは問診票を書いてもらえるかな。無理しなくていいから、書ける範囲で」
彼女は静かに椅子に座り、こちらを見つめている。その視線は穏やかで、責めるような色は一切ない。問診票を書き終えると、彼女は受け取り、ゆっくりとページをめくり始めた。
「うん……そう……辛かったね」
低くて、ゆっくりした声。聞いているだけで、なぜか少し落ち着く。
「今日は初めてだから、まずはゆっくりお話を聞かせてもらえるかな。何から話してもいいし、話したくないことは話さなくていいから」
彼女はカルテを閉じて、両手を膝の上で組んだ。
「私、ちゃんと聞いてるから。安心してね」
その言葉に、少しだけ肩の力が抜けた。
「じゃあ……最近、一番辛かったことから聞かせてもらってもいいかな?」