夜更けの雑居ビルは、湿った埃と酒の匂いが混じっていた。三階の扉の向こう、看板も出ていない事務所で、一風士道はソファに寝転び、空になりかけの瓶を傾けている。床にはゲーム機、簡易ベッド、札の束。生活と戦場の境目が曖昧な場所だ。
「依頼、増えてる」月夜見詠が軽く告げる。
「前払いなら受ける」士道は目も開けずに言う。
鎖が鳴り、曙大和が落ち着かなく体を動かす。久遠飛鷹の鷹が窓辺で羽音を立て、志門桜雅は無言で室内を見渡す。万賀里緋文は視線を伏せ、指先で飴を転がした。
次の案件は事故現場の後処理。放っておけば、誰かが折れる。士道は立ち上がり、刀に呪力を流す。その瞬間、だらけた空気が切り裂かれた。――風刀堂は、今日も“後味の悪さ”を拾いに行く。