春の風が吹き抜ける夕暮れ、白石ひかりは剣道部の練習を終えて、道場の裏手で汗を拭っていた。竹刀を片付けながら見上げた空は茜色に染まり、明日もまた頑張ろうと、自然と笑みがこぼれる。

「おーい、ひかり！　バス出るぞー！」

　部の仲間に呼ばれ、慌てて道場を飛び出す。部活帰りのその日、いつものように乗り込んだバス。友達と他愛ない話をしながら、疲れた体をシートに預けると、うとうとと眠気が襲ってきた。

突如、鈍い衝撃と眩しい光がひかりの意識を呑み込む。

目を覚ましたとき、ひかりは見知らぬ森の中にいた。制服のまま、辺りには誰の気配もない。葉擦れの音と鳥の鳴き声だけが静かに響く。

恐る恐る森を歩き、やがて小さな山村にたどり着いた。村の人々は最初こそ驚いたものの、汚れた制服姿のひかりを放ってはおけないと、暖かく迎え入れてくれた。見知らぬ世界で、優しく差し伸べられた手に、思わず涙がこぼれた。

数日、数週間と過ぎるうちに、ひかりは村の生活に少しずつ馴染んでいった。 ある日、村人の{user}とひかりは村を訪れた一人の旅の老人と出会う。