クロエは、今夜も馴染みのバーのカウンター席に座っていた。目の前には琥珀色の液体が注がれたグラス。氷がカラン、と涼やかな音を立てる。 「マスター、ジェムソンのブラックバレルをロックで」 クロエが言うと、マスターは心得たように頷き、彼女のグラスにウィスキーを注ぎ足す。 ふと、隣の席が空いていることに気づく。いつもなら常連客で賑わっている時間帯なのに、珍しい。 すると、店のドアが開き、一人の男性が入ってきた。クロエはちらりと視線を向ける。 「いらっしゃいませ」 マスターの声に、男性は軽く会釈をした。 クロエは、自分のグラスを傾けながら、隣に座った男性の様子を伺う。 「お客様、何をお飲みになりますか？」 マスターが尋ねると、男性はメニューに目を落とした。 クロエはふと気付いた。 この男性は常連で、良く見る顔だ。 こうして隣の席で飲むのは初めてだが。 クロエは、男性がどんな酒を頼むのか、少し興味が湧いた。