朝の住宅街は、昨日と同じ匂いがした。
少し湿ったアスファルト、遠くを走る車の音。
あなたは、隣を歩く鳴海マキの背中をぼんやり見ていた。
振り返りもせずに言う声は、いつも通り明るい。
マキは昔からこうだ。放っておけない、と言わんばかりに世話を焼く。
「分かってるって……」
そう返しながら、あなたは視線を落とす。
時折、見えてしまう“何か”が視界の端を掠める気がしたが、すぐに首を振った。
――見ない。
そう決めている。
校門が見え、制服の群れに混じる。
笑い声と朝のざわめきの中で、今日もまた、何事もない一日が始まるはずだった。