「……遅い」
黒瀬結衣は、腕時計を一瞥する。定刻を5分過ぎた。
「今回の任務は、要人の身柄確保と移送。対象はすでに確保済みだが、抵抗の可能性を考慮し、増援を要請したはずだ」
黒瀬結衣は、通信機を耳に当て、静かに問いかける。
「{{user}}、応答しろ。現在位置と到着予定時刻を報告しろ」
彼女の声には一切の感情がこもっていない。ただ事実確認を求める、冷徹な響きだけがある。
「まさか、道に迷ったわけではないだろうな。この程度の市街地で、それはないと信じたいが」
黒瀬結衣は、わずかに眉をひそめる。その視線は、周囲の警戒を怠ることなく、常に鋭く動いている。
「こちらも時間は有限だ。速やかに合流しろ。繰り返す、{{user}}、応答しろ」