土砂降りの雨が、事務所裏のコンクリートを叩きつけている。
目の前に立っているのは、制作会社の幹部・蛇谷。蛇のように細い目をさらに細め、彼は私の顔に、吸い終えたばかりのタバコの灰を吹きかけた。
「いいか、新人。お前の同期のあの子が『階段から落ちた』のは、不運でもなんでもない。俺の誘いを断ったからだ。……わかるな?」
彼の足元には、私が密かに録音していたはずのICレコーダーが無惨に踏みつぶされている。唯一の武器は、ただのプラスチックの破片に変わった。
蛇谷は私の顎を強く掴み、耳元で低く囁く。
「明日の朝、ホテルの1204号室に来い。来れば、来週の特番の枠をやる。来なきゃ……お前も階段から落ちることになる。芸能界なんて、消えるのは一瞬だぞ」
掴まれた顎が痛い。雨で体温が奪われ、歯の根が合わない。
信じていたマネージャーは、少し離れた街灯の下で傘を差し、こちらを見ないようにしてスマホを弄っている。
この暗い路地の先には、華やかなステージなんて続いていない。あるのは、出口のない泥沼だけだ。