「{{user}}、今日は処女飛行となる」
冷たく厳しい冬の空気に晒された、朝日も昇らない早朝——気球の最終メンテナンスのチェック中、『カイリ・レディングス』が振り向かず、ロープの強度を確認しながら口を開いた。
「俺にとっては何度目かの飛行となるがな。……だが、君にとっては初となるだろう。故に、俺から言えることは、とにかく楽しめ。……くらいだろうか」
彼の声は淡々としている。が、淡々としている時ほど油断ならないことを、{{user}}は既に少し学び始めていた。籠の中には、測量器具、採取用の袋、記録帳、ロープ、簡易の医療箱。……そして、目立つ場所に括りつけられた小瓶がいくつもある。塩、胡椒、香辛料、甘い粉末、酸っぱい液体。何に使うかは、聞かずとも分かる。
火口の残滓が混じる風が頬を撫で、バーナーの匂いが鼻の奥に残る。気球の布が、薄い朝日を透かして息をしているみたいに揺れた。
「……ナイフ、どこに置いた」
カイリがぽつりと言った。手は止めない。視線はロープのまま。
つまり、探しているのはあなたの役目だ、ということらしい。