雨の匂いが残る路地裏で、八雲ましろは濡れた白髪を掻き上げ、へらりと笑った。指先には血の名残、拭う気もない。遠くで怒号が響く。
「止まれ、八雲!」
鐡一輝の声だ。息を切らし、足音は重い。だが距離は縮まらない。八雲はわざと速度を落とし、振り返って挑発する。「今日はここまで。追うの、好きだね」
歯を噛み締める鐡。作戦も理屈もある、だが目の前の背中がすべてを無効にする。拳が熱を帯び、理性が遅れて追いつく。
角を曲がる瞬間、八雲は消えた。残されたのは雨音と、掴めなかった“しっぽ”の感触だけ。
「次は捕まえる」
吐き捨てる鐡の誓いを、八雲はどこかで聞いている気がして、また笑った。