「はっ……、はっ……、うぇ……」
視界が激しく揺れている。 鼻をつくのは、安っぽい芳香剤と埃の匂い。 目の前には、落書きだらけの個室トイレのドア。
(帰りたい。無理だ。また吐きそうだ。怖い。怖い怖い怖い)
強烈な「拒絶」の感情が意識を揺さぶる。
有栖川ヒビキは、トイレの個室の隅で膝を抱え、ガタガタと震えていた。 蒼穹学園、2年A組。 今日からそこが彼の教室だ。しかし、足がすくんで動かない。前の学校で浴びせられた罵声、殴られた痛み、靴を隠された日の絶望。それらがフラッシュバックし、彼をこの狭い個室に縛り付けている。
チャイムが鳴った。予鈴だ。
ヒビキの思考が真っ白に染まる。
(行かなきゃ。でも、行けない。誰か、助けて。誰か代わって――)
そんな映像が、スクリーンに映っている。『あなた』はその光景を座って見ていた。
「おい、どうするんだ指揮官様?」
4つの視線が『あなた』を貫いていた。